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トキソプラズマ症

 トキソプラズマ症は,トキソプラズマ原虫の感染によっておこる人獣共通感染症です。本原虫による感染は大多数の哺乳類,鳥類で確認されており,かつ,世界中のほとんどの地域で本症の発生が確認されています。日本では成人の20〜30%が,アメリカ合衆国では,6,000万人以上がトキソプラズマに感染していると言われています。
 また,原虫は宿主内で長期間生存するため,免疫不全状態などに陥ると再発することがあり,現在後天性免疫不全症候群(エイズ)患者における主要な疾病の一つになっています。
 我が国では,公衆衛生上の問題もあり,豚で家畜伝染病予防法により届出伝染病に指定されており,診断した獣医師には届出義務が課せられています。

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1.宿主
 中間宿主:ほとんどすべての哺乳類ならびに鳥類
 終宿主:猫及びネコ科の動物

2.病原体
 病原体は,胞子虫類に属する原虫で,トキソプラズマ原虫(Toxoplasma gondii)です。
 トキソプラズマ原虫には,増殖型,シスト,腸管型(コクシジウム発育型)の3つの発育期があります。豚などの中間宿主では,増殖型(図1)とシスト(図2)の2つの発育をし,腸管型は終宿主である猫の仲間だけで行い,糞便中にオーシスト(図3)を排出します。

図1.三日月型を呈する増殖型原虫,ギムザ染色 増殖型:
タキゾイトとも言われます。
感染初期や,発病期に見られます。
寄生細胞の中で分裂を繰り返し,急激に増数します。
図1.三日月型を呈する増殖型原虫,ギムザ染色
(動物衛生研究所 志村亀夫先生 提供)
 

図2.脳内にできたシスト,ギムザ染色 シスト:
慢性期に見られる形態です。
宿主側の免疫により増殖型原虫は減数し,シストへと移行します。内部にはブラディゾイトと呼ばれる原虫が多数入っています。シストは脳や筋肉内に形成されます。
図2.脳内にできたシスト,ギムザ染色
(動物衛生研究所 志村亀夫先生 提供)
 

図3.胞子形成オーシスト 腸管型:
ネコ科動物の腸管においてのみ見られる形態です。シストから腸管で遊離した原虫が増殖を繰り返し,有性生殖原虫へと発育し,有性生殖を行い,オーシストになり,糞便中に排出され,感染力を持つ胞子形成オーシストになります。
図3.胞子形成オーシスト
(動物衛生研究所 志村亀夫先生 提供)
 

3.生活環
 胞子形成オーシストが猫以外の宿主に食べられると,オーシストから出てきた原虫が増えて増殖型原虫となり,さまざまな細胞内で増殖します。この時期に大量の細胞が破壊され(急性期),実質臓器で出血,壊死等の病変が認められます。
 感染後2週間以上たつと増殖型原虫は宿主側の免疫によって減数し,シストの形成が始まります。シストは次の感染を待っている状態で,脳や筋肉中に形成され長期間存在します。
シストが新たな宿主に食べられた場合,猫以外の動物では,シストから出てきた原虫が増えて増殖型原虫となり,シストを作り,これが繰り返されます。
 一方,ネコ科の動物に食べられた場合は,増殖型原虫からシストへの発育以外に,腸管型の発育(有性生殖)をし,感染後4〜5日で胞子未形成オーシストを糞便中に排出します。胞子未形成オーシストは好適条件下では2〜3日で胞子形成オーシストに発育し,感染力を持ちます。

4.感染
 感染経路は,次の3つです。
 (1) 胞子形成オーシストによる経口感染
 (2) シストを含んだ加熱不十分な肉による経口感染
 (3) 増殖型原虫による胎盤感染 

5.症状
 人への感染源とし最も重要であり,終宿主である猫及び人について述べます。


 成猫は他の動物と同様に特有な症状を示すことはありませんが,幼猫での発生例は死亡率が高く,症状は,抗生物質に反応しない40℃以上の発熱,肺炎による呼吸困難,神経症状,白血球の軽度〜中等度の減少,虹彩炎,網膜炎,元気消失等が見られます。
 妊娠中の母猫が感染し,胎盤通じて子猫に感染すると,流早死産や,生まれてもさまざまな症状が現れ死亡することがあります。


 人はほとんどが不顕性感染で,重い症状が出るのは,胎児(先天性トキソプラズマ症)と免疫機能が低下している人だけです。
 先天性トキソプラズマ症は,妊娠の数ヶ月前あるいは妊娠中に初めてトキソプラズマに感染した結果起こります。症状としては,脈絡網膜炎(失明に至る眼の炎症),肝臓や脾臓の腫大,黄疸,痙攣,水頭症,頭蓋内石灰化,精神遅滞等がみられます。
 免疫機能の低下している人が感染した場合は,感染部位によって様々な症状が現れます。脳のトキソプラズマ症(脳炎)になると,半身の脱力感,言語障害,頭痛,錯乱,痙攣発作などが現れます。急性散在性トキソプラズマ症では,発疹,高熱,悪寒,呼吸困難,疲労などが現れ,髄膜脳炎,肝炎,肺炎,心筋炎を起こす人もいると言われています。

6.予防

 飼育舎を清潔にして,糞便を適切に処理するようにしてください。オーシストは,排出時には胞子未形成で感染力はありませんが,24〜72時間で胞子形成して感染力を持つようになります。  
胞子形成オーシストは環境中での抵抗性が非常に強いので,確実にオーシストを殺滅するには焼却や熱湯に浸すことが大事です。オーシストは60℃30分,80℃1分,100℃では瞬間で死滅します。


 人への感染は,ほとんどの場合猫の排出するオーシストと,食肉中のシストであるため,これらを摂取しないように心がけることが重要です。特に,免疫が弱っている人及び妊娠前あるいは妊娠している人は感染しないように十分注意をしてください。

 一般的に言われている本症の予防対策は以下のとおりです。
(1) 食用肉はよく火を通して調理する。
(2) 果物や野菜を食べる前によく洗う。
(3) 食用肉や野菜に触れたあとは,温水でよく手を洗う。
(4) ガーデニングや畑仕事などでは手袋を着用する。
(5) 猫の糞尿は毎日交換し,交換時は手袋を着用する。
(6) 猫を野外では飼わない。
(7) 免疫が弱っている人及び妊娠前あるいは妊娠中の人は予防や抗体検査に努める。

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